大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉家庭裁判所松戸支部 昭和57年(少)167号 決定

主文

少年を千葉保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五六年一一月当時千葉県立流山中央高等学校三年生に在籍していた者であるが、同年五月ころからの学校当局の生徒に対する指導方法や停学処分、退学措置等に不満を抱いて、

一  同様の不満を有する同校生徒の甲他一一名と同校校舎を損壊しようと企て、昭和五六年一一月一五日午前二時ころ、千葉県流山市大畔二七五番地の五所在の同高等学校(校長福原憲司)において、上記一二名と共に同校校舎内の約八ケ所の教室黒板、校舎壁、ガラス窓などにスプレー式塗料を用いて波状の線や「千葉県立流山中央高等学校死す」などの文言を大書し、校舎内に消火器八個の消火剤を放出し、校庭の植木一二本の枝を折り、庭石を倒したり、投石してガラス約三七枚を割るなどし、同校に被害見積額約六八万三二一〇円相当の損害を与え、もつて数人共同して器物を損壊した

二  乙他二名と共謀のうえ、同校校舎を焼燬しようと企て、同年一二月一日午後二時二〇分ころ、同校校長福原憲司が管理し同校教員二川原謙二他多数の生徒が現在する鉄筋コンクリート造四階建校舎普通科教室棟一階西側軽音楽部教室前廊下において、同所に置かれたゴミ入れ用ダンボール箱二箱にガソリンをふりかけたうえ所携のライターで点火して火を放ち、同ダンボール箱を燃え上がらせて前記建物に燃え移らせてこれを焼燬しようとしたが、前記二川原らが消火したため、前記建物を焼燬するに至らなかつた。

ものである。

(非行事実二を認定した理由)

少年は、非行事実二について、犯行当時、同校普通科教室棟二階の三年生の教室か廊下に居たとして犯行への関与を否認しているものであるが、証人乙、同A、同Bの当審判廷における各供述、当裁判所によるC、Dを各調査した結果等並びに一件記録ことに乙(昭和五六年一二月二三日付、昭和五七年一月三〇日付、同年二月五日付)、A(同年一月二一日付)、B(同年二月三日付)の検察官に対する各供述調書、Cの検察官(二通)及び司法警察員(三通)に対する供述調書、Dの検察官及び司法警察員(三通)に対する供述調書等を精査した結果によれば、本件放火事件は、乙ともう一名の男子生徒が放火場所に臨み実行行為に加担しているところ、その男子生徒について、近接した位置に居た同校一年生の共犯者乙の供述によれば、途中変転はあつたものの最終的に当初と同様に、少年Kであるというものであり、その信用性を疑うべき事由も見い出し難いこと、また、前記二名の男子生徒を目撃した同校二年生のC、Dの各供述は、当初から一貫してうち一名は少年Kであるというもので、その目撃状況、犯人特定方法等の供述に至るまでの諸事情と併せ検討すると、それら供述の信用性を認めることができること、他共犯者の同校一年生A、Bについても、途中供述の変転はあつたものの、放火場所以外の二ケ所で見張りをしていた旨最終的に当初と同様の供述をしており、これら事由と犯行に至る経緯等その他一切の事由を併せ考慮すると、少年は、前記非行事実二のとおり、同校一年生のA、Bが他所で見張りをするなか、同校一年生の乙と共にガソリンをふり撒いたダンボール箱に点火する実行行為をしたことを認めることができ、これに反する少年の当審判廷における供述、一件記録中の少年の検察官及び司法警察員に対する供述調書、乙(昭和五七年一月一九日付)、A(同月一九日付)、B(同日付)の検察官に対する各供述調書、乙(同年一月八日付)、A(同月九日付)、B(同日付)、E(同年六月一五日付)、F(同月一六日付)の作成した各供述調書、証人Eの当審判廷における供述はこれを措信することができない。

(法令の適用)

非行事実一について 暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二六一条)

同二について 刑法一一二条、一〇八条、六〇条

(処遇の理由)

少年は、サツシクリーニング業をする父、母の長男として出生し、小、中学校と特別問題行動はなかつたところ、高校に進学して高校二年生ころから学校の指導方法や生徒への対処の仕方に反撥する生徒グループの者達と交際し、同グループのリーダーが退学措置をとられたことを契機に学校当局への反抗態度を増長させ、集団状況下に本件各非行に及んだ。

そして、少年は、それら非行がもとで高校を自主退学し、家業の手伝いをしたりして、現在はカレーシヨツプの店員として働き安定した生活を送つている様子である。そうしてみると、集団状況下の行動に安易に同調さらには増長して、粗暴かつ危険な行為に及んだ少年について、抑制力と規範遵守の精神は未熟で要保護性は大きく、現在の社会人としての生活は安定・沈静しているにしても、将来の健全な育成を期するうえから、少年の負因とされる点の矯正の徹底を図ることが必要と思料されるので、資質、保護環境、非行態様等を考慮し、少年を相当期間保護観察に付することとした。

よつて、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例